私が脳振盪(脳震盪)の啓蒙活動の開始を決意した理由
投稿日:2025年2月5日
更新日:2025年2月5日
もったいない
時間が。あなたの人生が。
ちゃんと対処すれば治るものなのに、治っていない。
もったいなさすぎます…
そんなことを多く感じ、なぜそのような状況になったのか、今から何ができるのか、何をすべきか。そのようなことをたくさん考える機会があったのがカナダで学び始めた「脳振盪」でした。
セミナーの中でお話させてもらう事を少し共有させてもらいます。だいぶ長くなってしまってエッセイみたいになってしまいました。笑
(やや専門的な内容も含まれているので脳振盪について知らない方はすみません)
初めのうちは、私も脳振盪後のリハビリテーションにおいて、段階的競技復帰プロトコル(Graduated Return To Play Protocol:以下、GRTP)にそって、ステージ1では「活動なし:身体と認知活動の休息」を守り、症状がなくなったらプロトコル通りのステージ2「軽い有酸素運動」を行おうとしていました。
待って症状がなくなるのであれば、それは良かったのですが、待ってもなかなか症状が「0」にならない。ステージ1の目標である「回復」が何をもって回復と定義しているのかもわからないまま、症状がないことを回復とするならば、時間が経っても回復しないケースが多すぎました。「0」になるまで待てない、いつまで待てば良いのか、と。あと、私が勤めていたスポーツクリニックはPain Clinicとしての機能も有していたため、慢性疼痛や慢性的な症状を有する患者さんも多く、その中で脳振盪からの症状が長引いている患者さんも多数いました。通常言われている「ほとんどの人が7-10日で回復する」が全く当てはまりませんでした。クリニックに来た時点でそのタイムフレームを過ぎている人の方がほとんどで、その時から「ほとんどの人が7-10日で回復する」に疑問を抱いていました。
そして、ステージ2の「軽い有酸素運動」。アスリートが競技復帰するにはもちろん身体活動、体力的要素の回復が必須になってくるので、リハビリの過程で運動ベースの内容が入ることに意義はありませんでしたが、そもそもの体力を知らない対象者相手に〜70%の負荷で軽い有酸素運動を行う、が違和感でたまりませんでした。とか言いながら、初期の頃は、このプロトコル通りに「軽いステーショナリーバイク」から開始し、様子をみていました。バイクを使用することには反対意見はありません。ケースによっては有効活用すべきだと思います。ただ、「とりあえず感」が強かった。症状が良くなったから「とりあえず」軽くから始める。間違ってはないですが、根拠は全くありませんでした。個人的に教科書に載っているからという理由で治療法やエクササイズを提供することはあまり好きじゃなくて、提供するからには根拠持ってというのが当たり前と思ってやってきたので、この「とりあえず感」が違和感でしかありませんでした。
それに加えて、前庭系の評価とリハビリテーションを学んでからは、脳への衝撃によって起こりうる機能不全が運動器にのみ起こるわけではない、むしろ身体的な機能不全より、見た目ではわかりづらい神経系の機能不全の方が多いことを知りました。認知機能であったり、眼球運動であったり、静的なバランス機能であったり。そして、それらの機能不全に対するアプローチは、特に心拍数を上げたり、運動強度を上げたりする必要はなく、もちろんそれらをエクササイズとして行うと症状が一時的に出ることはありますが、長く続いて悪化する、ということはありませんでした。
ということは、上記した認知的活動、眼球運動、静的なバランスエクササイズなどは、GRTPのステージ2の段階で、実施して全然問題ないのでは?と強く思うようになりました。いや、安静にしていても良くなっていないケースの方が多いし、他の傷害でもじっとしていて勝手に機能が回復することはないので、むしろ症状に注意しながらですが、ステージ2の前からドンドンやっていった方が良いのでは?と思い、SCAT3のGRTPプロトコルを無視し始めました。笑
そしたら、、良くなるんです。そして症状が治まってきたら身体活動を行う量も改善していくんです。絶対安静を長期間続けて急に軽い有酸素運動を行うより、1-2日の安静期間後は「できるところから活動を開始」する方が圧倒的に予後が良い感じがする。それを感じ出してからは完全にGRTPは無視でした。笑
言い方悪いですね。笑 無視というか、コンセプトの段階的に負荷を増加させていくことはリハビリを行う過程で当たり前なのでその部分は当たり前に頭に入れておき、「運動ベースのみ」のプロトコルではなく、他の機能不全に対するアプローチも含めたリハビリを、できる範囲であれば受傷の数日後から始めることが必要だ、と。
そんなことを感じながら自分なりのやり方で脳振盪のリハビリを行っていました。ですが、来院する患者さんの「1~2週間安静したけど治らない」「他で診てもらったけど治らない」は減りませんでした。「他で診てもらったけど…」は、ほぼリハビリの内容が運動ベースのエクササイズのみでした。症状ベースでリハビリが組まれているのではなく、復帰させたい時期からの逆算で運動強度を上げているけど、それに症状の改善が追い付いてこず、治っていない。
ほんともったいない.. 最初からちゃんとしたリハビリができていればそんな長期間苦しまなくても良かったかもしれないのに、もっと早く競技に復帰できていたかもしれないのに。受傷から時間が経ってから診させてもらう新患の患者さんにはそんな思いをすることが多かったです。
そんな中2016年にドイツのベルリンで開催された国際スポーツ脳振盪会議の中で、脳振盪に関する取り組みがアップデートされました。その内容の1つにGRTPのステージ1の記載が「活動なし:身体と認知活動の休息」から目的が「症状を増悪させない程度の活動」、活動/運動が「症状を誘発しない範囲の日常動作」に変更されました。
そやんな!!何もしない安静から、身体活動自体が認められた内容に変わっており、この記載を見た時は本当に嬉しかったことを覚えています。それまでプロトコルを無視してやってきた感覚の方が正しかったんや、と。
同じ頃、VOMS(Vestibular Ocular-Motor Screening)と呼ばれる脳振盪を患った対象者に特化した前庭系・眼球運動系のスクリーニングツールも世に出ました。それも、そやんな!!でした。
だって、そこに症状出るってもう調査研究でわかってるやん。わかってるなら、リハビリに絶対組み込むべきやん、と思っていたので。しかも、身体的な運動の前段階から行える、行うべき内容で、脳振盪のリハビリには外せない部分だったので。
そんな世界の流れを嬉しく感じていた2017年。3月に帰国してから、たまに脳振盪に関する話をできたり、聞いたりしていましたが、日本の状況を少しずつ知ることができました。そこで感じたのは、そもそも脳振盪の知識を持っている人が少なすぎること.. それはスポーツチームに携わっている人も含めてです。どのようにリハビリを進めていって良いかを把握できていないから、医師の指示に従って進めていても経験として身についていかない。結局何が良くて何が悪くて、復帰が早かったのかも遅かったのかも判断できていない。基本的な知識を学んでいなかったらそうですよね。私も最初はそうでした。私は幸い、その後学ぶ機会と脳振盪の患者さんを診る機会に恵まれ、知識と経験を積むことに関しては良い環境にいさせてもらっていました。
チームではほぼ毎日選手と接するトレーナーやセラピストの方がリハビリを担当するはずなので、何週間もしくは月に1回の診察を行う医師の指示だけを守っていてリハビリが上手く進むということはないでしょう(医師を批判しているわけではないので)。脳振盪に関してはなおさらです。そこに関しても選手の競技人生がもったいない。本当だったらもう少し早く復帰できたかもしれないのに、と思ってしまうことがありました。
そのような経験が今の活動の基となっています。知ってさえいれば、ちゃんと評価さえできればリハビリを上手く進められるのに!と。もちろん私の持っている知識や経験が全てではないので、私ももっと勉強していかなければならない部分はありますが、今の私でも伝えられることがあるのであれば、それを求めている方には全力で伝えていこうと思っています。「知ってさえいれば対応できたのに、もったいない!」をもっと減らしていければな、と思っています。
これが今の私の活動の原点とも言える経験、考えで、いきなりベストな環境に変えていくことはできませんが、できる部分から変えていきたいと思います。
引き続き、精進していきます。
今後とも、宜しくお願い致します!